ただのコーヒーからおいしいコーヒーに認知を上げた3つのきっかけイベント

コーヒー 自由研究

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2013年から15年にかけて、わたしは3つの出来事が日本のコーヒーワールドを刺激した、と思っています。

●その1:セブンカフェ本格始動(2013年1月)
セブンイレブンジャパンが2013年1月に始めた、コンビニでコーヒーを売るスタイル。コンビニ業界の中ではいちばん後発組らしいのですが、集中的なマーケティングによって知名度は短期間で急上昇し、同年9月までに2億杯を売り上げたそうです。1杯100円は、缶コーヒーよりも安く、レギュラーコーヒーなので味もおいしい、と評判になりました。
2億杯なんて規模なので、スペシャルティーグレードのものでは当然ありません。

ここで注目したいのは、豆の種類。標高1000mモノとはいえ、喫茶店などで使われているレギュラーコーヒーの定番であるアラビカ種を導入して、レギュラーコーヒーとは縁遠い缶コーヒーユーザーが多いコンビニで売り出して大ヒットとなったことですね。コンビニにおける豆の種類は、ローグレードからコモディティにしれっとランクアップ。ユーザーは知らないうちに「アラビカ種っておいしいのね」ということになったわけです(笑)。

セブンカフェのしれっと戦術では、おいしい理由を、「香り、コク、後味をいじった」としてユーザーに啓発しています。

香り(香り立つ、華やかさ)
コク(深い味わい)
後味(雑味のないすっきり感)

前の2つはいつも誰かがなんとなく言っていることなのですが、3つめの「後味」について大規模に言及されたのはこれが初めてではないか、と思っています。さらに、その中で「雑味がないすっきりしたのがおいしいんだよ」という定義もしています。これは、かなりの事件でした(笑

もうひとつ、しれっと言及しているものがあるのですが、それが「ペーパードリップしてます」ということです。しかし、この事変だけでこの項目は注目されているようには見えません。

もうひとつしれっと浸透させたのは、コーヒーを抽出するのにマシンを動作させるので、抽出までにちょっと時間がかかるということをユーザーに許容させたことですね。オフィス街にあるコンビニのお昼どきを見てみるとわかりますが、セブンカフェ待ちで店内に列をなす光景はもはや普通の景色となりました。

●その2:スタバ、ゲイシャ種販売開始(2014年9月)
スターバックスコーヒーが、2014年にスペシャルティーコーヒーの最高峰と言われるゲイシャ種を、限定支店で販売しました。銘柄はパナマ・アウロマール。正確にはパナマ・ラ アウロラ農園・ゲイシャ種。豆販売で250g10000円、店頭のドリップコーヒーでは1杯1650円で提供されました。翌年の15年にも同様にゲイシャ種を販売したので、これから定例化するのかもしれません。

これは何が事件かというと、単純明快、

「ものすごく高いじゃないか!!」

というインパクトを、多くの人々に与えたことです。

報道発表を大々的に行ったので、雑誌や新聞、テレビがこぞって取り上げたため、「ものすごく高い!」というインパクトに加えて、なぜ高いかという理由も世間に広く伝えられたのは大変意義深いものでした。

ただし、なぜ高いか、というのは世間の人はほとんど覚えてないと思います(笑)。

さきほどのセブンカフェのように、スタバもここでレギュラーコーヒーからスペシャルティーコーヒーにランクアップを図っていますね。

この販売によって、世間には「ものすごい高いコーヒーがあるんだ」「ものすごいおいしいコーヒーというものがあるらしい」という印象を強く与えたとわたしは思います。「ゲイシャ種」という「芸者」に通じる名前もインパクトがありました。

このゲイシャ種は、プレス式で提供されていましたが、なぜそういう方法で出されたか、というのはとくに注目もされなければ議論もされませんでした。

●その3:サードウエーブコーヒーの旗手、ブルーボトルコーヒー再上陸(2015/2)
これも記憶に新しい出来事だと思います。
やってることは、昔からある国内の自家焙煎業者の焙煎と、喫茶店が行っているハンドドリップのミックスなのですが、それを「サードウエーブ」とかっこよく形容し、取り扱う品種をスペシャルティーコーヒーにし、シリコンバレーの資金調達によって急拡大したコーヒービジネスのルネサンスという位置づけで、相当のインパクトがありました。

インダストリーとしてスペシャルティーコーヒーが世の中に大々的に出てきたのは初めてだと思います。

ブルーボトルコーヒーを通じて、世の中に広まったことは、

・ハンドドリップ・ペーパードリップのコーヒーはおいしい。
・淹れるまで待つ(4~8分)のはあたりまえ、っていうかオサレ
・コーヒーにはスペシャルティーというのがあるらしい
(名前が長いといいね!と思っておけばいい、的なかんじ)
・浅い焙煎のほうが風味が多いね

ということでしょうか。

ここまで注目されたのは、わたしの視点ではその1のセブンカフェで「おいしいコーヒーを飲むにはちょっと手間が必要なんで、マシン動かしてる分くらいは待ってやろう」というマインドに、その2のスタバ・ゲイシャ種販売で「おいしいコーヒーを飲むには高い金払わないといけないね」という認識が潜在的に下積みされたのがあったと感じています。おそらく同じ人がブルーボトルに行ったわけではないでしょうが、世間への認知の浸透というのは、あらゆる人になんとなく伝わってなんとなく印象に残っていることの積み重ねであると思うので、この推論は外れてもないと思っています。

ブルーボトルコーヒーがやってることは、すべて国内コーヒー産業の焼き直しです。しかし、スペシャルティーコーヒーという上質コーヒーという視点からすべてのプロセスに再アプローチしてる点で、プロセスをもともと知っている人たちに対して、「概念を変えよう」と伝えているようにも感じます。これこそがサードウエーブとよばれるコーヒームーブメントの本題なのではないか、とも思いますが、どうでしょう?

まとめ
おいしいコーヒーを飲みたい、と言っても、何がどうおいしいからどんなコーヒーを飲んだらいいのか、を解明する旅を始める人はなかなかいないというのが正直なところです。しかし世間は「おいしいコーヒー」を具体化させるために、少しずつ、その実現に向かって動いていると断言します。それは13年のセブンカフェ、14年のゲイシャ種販売、15年のサードウエーブ上陸によるコーヒーに対する概念の変更要求という3つの出来事を見ていると感じることです。3つめのブルーボトルコーヒー上陸は、さらに

コーヒービジネスのありかた
味に対する考え方
抽出技術に対する考え方

という課題が世間に向けて提示されているように思います。
さらにこの先には、「どう楽しむのか」「本当に楽しむというのはどういうことか」という問いが出てくるのではないか、とわたしは感じています。

しかし、すべてはきょうの1杯のコーヒーから。

さて、どんなコーヒーを淹れようか。